ブログ
これは「Stockholm Environment Institute (以下、SEI)※」から、2022年7月に発表された記事(ブログ)の翻訳文です。
SEIは、持続可能な開発と環境問題を専門とする非営利の独立した政策研究所であり、持続可能な政策立案とその実行を目指す組織であり、気候変動、エネルギーシステム、水資源、大気質、土地利用、衛生、食料安全保障、貿易問題に取り組んでいます。SEIのブログを翻訳の対象としたのは、結果に対して公正かつ中立的で科学的根拠がベースになっていると判断したため、本記事を掲載します。
※参照(原文はこちら):Stockholm Environment Institute
私たちワイズアンドパートナーズがこの翻訳に取り組んでいるのは、世界のSDGs活動が、今どのような課題に直面しているかをシェアすることで、まさに私たち日本人のSDGsの現状認識にも役に立つと思ったからです。
例えば、ブログのなかにある「都市部の人々がそれぞれの都市レベルでSDGsをよく理解し、気候変動に関するパリ協定など他の目標との相乗効果を生み出しながら地方レベルで活動をしていくことが必要かつ重要である」という点は、まさしく私たち個人レベルで何をやるべきかを考えるきっかけにしていきたいセンテンスではないでしょうか。
(以下、記事(ブログ)の翻訳です)
<記事のハイライト>
● 今、2030年アジェンダの達成に向けた14年にわたる世界規模での取り組みの中間地点に差しかかっています。
● それに向けて、持続可能な開発に関する人々の理解やコミュニケーションの方法は変化してきましたが、その一方で、人々の実際の行動には変化が見られないということが明らかになっています。
● 私たちが今後どう歩んでいくかは、持続可能な未来を切り開くための国際的な目標のあり方について、一つの例を示すことになるでしょう。
今、私たちの世界は、変革のための「2030アジェンダ」の達成に向け、折り返し地点に差し掛かっています。2030アジェンダが正式に発効してから6年半が経過し、世界はどうすべきなのか、改めて考える時期に来ています。
最新の進捗報告書によると、2030年までの目標達成には程遠い状況であることが判明しています。科学的に検証したところ、SDGsの政治的なインパクトは限定的であることがわかりました。目標によってもたらされた「変革」は、主に形式的なものであり、人々が持続可能な開発について理解し、コミュニケーションをとる方法には影響を与えたものの、実際の行動にはあまり影響を与えていないことが、科学的に明らかにされました。このレビューでは、立法措置から資源配分の変更まで、より徹底した規範的・制度的な変革を呼びかけています。
同時に、これまでのSDGsの効果を評価するとき、もしこの目標がなかったらどうなっていたかということも考えなければなりません。長期的なビジョンと中期的な目標を設定した2030アジェンダの取り組みを始めていなかったら、どうでしょうか。COVID-19のパンデミックやウクライナ戦争に対処する際に、もし2030アジェンダがなかったら、世界は今どうなっているのでしょうか。
2023年のSDGsサミットを前に、これまでの進捗状況が芳しくないとなると、「go big or go home(大胆に進むか、引き下がるか)」 のような感覚になります。しかし、SDGsの目標達成までの期間が残り半分を切った今、「大胆に進む」とはどういうことなのでしょうか。このまま「行動の10年(Decade of Action)」のもとで、取り組みを加速させるべきなのでしょうか。たとえ完全には達成できなくても、範囲を拡大してすべてのSDGsの達成を目指すべきなのでしょうか?それとも、一旦SDGsのことは忘れて、別の取り組みに着手すべきなのでしょうか。私たちの今後の歩みは、持続可能な未来へ導くための国際的な目標のあり方について、一つの例を示すことになるでしょう。
また、2023年には、2020年9月の国連創立75周年の記念宣言を受けて、António Guterres(アントニオ・グテーレス)国連事務総長(注1)が2021年9月に発表した「Our Common Agenda(私たちの共通の課題)」が議論の対象となります。この報告書には、約90項目の提言が盛り込まれており、政策や予算を決定する際には、「科学と専門知識の裏打けがある」ことが強く求められています。
ストックホルム環境研究所(SEI)は、環境と開発の研究機関として、科学的根拠に裏付けられた活動を推進するという方針を支持しています。また、SDGsは世界で初めて持続可能な開発のために、あらゆる観点を考慮した上で取りまとめられた取り組みであり、加盟国やその他の関係者から絶大な支持を得ている点も、高い評価に値すると考えています。例えば、「SDGsシナジー」や「LEAP」などのツール、統合的な国家決定貢献(NDC)とSDGs計画、政策一貫性に関する比較分析などを通じて、2023年版「持続可能な開発」グローバルレポートや政策立案にノウハウを提供することで、SEIはこの取り組みを支援してきました。
しかし今後、目標達成に向けての取り組みの後半に入ることを踏まえると、より実践的で、より焦点を絞る必要があると考えています。包括性、普遍性、統合的思考といったSDGsの良い点を、現実の政策ニーズに対応する形で生かしていくことが必要です。私たちは、以下の3つの戦略によって、それが達成できると考えています。
1)優先順位付け
グローバルな目標を設定するという過去の試みから、私たちは何を学んだのでしょうか。それは、データを見れば明らかです。1972年以来、地球環境と持続可能性に関する目標のうち、達成されたもの、あるいは大きな進展を見たものは、およそ10分の1にすぎません。率直に言って、参考になるような成功例はほとんどないのです。
しかし、ミレニアム開発目標(MDGs)の経験から、 焦点を絞って取り組みを加速することは可能であることがわかりました。2010年のMDGs加速フレームワークは、ミレニアム開発目標の達成に向け、最後の5年間の取り組みとしてスタートし、目標達成のために変革が不可欠だと判断した一部の取り組みを優先するものでした。そして、主な取り組みのボトルネックを分析し、国家予算や貧困削減戦略など、従来の計画の主流となる枠組みやプロセスに統合していくことに注力しました。SDGsはMDGsよりも範囲が広く、より普遍的なものですが、MDGsから参考になる点もあります。17のSDGsは、世界で最も優れた包括的な政策評価の枠組を提示しており、その統合的かつ体系的な観点は損なわれてはならないものです。
一方で、このような統合的なアプローチは、初期的な分析にとどまるものであってはならず、国や地域の状況に基づいたプライオリティーの高い目標を設定するために、積極的に活用していく必要があります。この優先順位付けは、根拠に基づいて行われる必要があります。2050年に向けてより持続可能な道を歩むために、2030年にはどのような結果を出すことが必須であるかを決定すべきです。科学的根拠に基づく優先順位付けは、課題設定においても解決策の決定においても、単なる思いつきで行うものではないのです。
2)ローカライゼーション
これは、物事を前に進める上で重要な視点です。COVID-19の対応においては、地方自治体が重要な役割を果たしていることが明らかになりました。地方自治体が今後、重要な役割を果たし続けるためには、支援が必要です。そのため、SEIでは「Local2030連合」に参加しています。2021年、国連事務総長執行部は、地方レベルでのSDGsに関する行動をサポートし、推進するプロジェクトをSEIに委託しました。都市部の人々がそれぞれの都市レベルでSDGsをよく理解し、気候変動に関するパリ協定など他の目標との相乗効果を生み出しながら地方レベルで活動をしていくことが必要かつ重要であるということが私たちの調査で明らかになっています。
地方自治体は、優先順位付けやプログラム化、資金調達が議論・決定されるフォーラムに参加するのは難しい、と感じているようです。今月開催される「持続可能な開発に関する政治フォーラム(HLPF)」は、地方自治体が重要な役割を果たすことができる場の一つなのです。
3)Goodな事例よりも、Bestな事例を共有する
今後取り組みを加速させていくにおいて、どのような取り組みが変化としてSDGsの目標達成につながるのか、について、政策決定側が明確にする必要があります。どのような変化を起こせば、目標は達成できるのでしょうか? その変化は、目標や指標から得られるのでしょうか?それとも、SDGsタスクフォースのような制度的なものでしょうか?あるいは、これまでに設計された政策からでしょうか?
それはおそらく、これらの組み合わせなのでしょう。しかし、裏付けのない事例や大量の「優れた実践」例以上のものを確立していかなければなりません。事例として紹介されているSDGs関連の動きやパートナーシップの多くは、どのように変化につながるのかが明確ではありません。ベスト・プラクティスを見極めることに焦点を当てた分析をもっと行うべきです。
私たちが問うべき研究課題は、具体的にどのような取り組みを行うと、SDGsのパフォーマンスを向上させ、最大のシナジーをもたらすのか、ということです。とても難しい問いではありますが、行動を加速させるためには、これに答えなければならないのです。
(この記事を書いたのは)
<Åsa Persson>
ストックホルム環境研究所(SEI)のリサーチディレクター兼副所長。国連の「2023年版持続可能な開発報告書」の執筆者として任命された15人の科学者のうちの1人である。
<Ivonne Lobos Alva>
SEIでSDGsに関する業務を担当する上級専門研究員。SEIラテンアメリカが拠点。
<Therese Benich>
SEIのリサーチフェローで、ストックホルム本部を拠点とする。
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