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アメリカでは『クリードIII』という映画が興行記録を塗り替え、評論家からも高い評価を得ました。実はこのヒットの裏には、アニメの影響が少なからずあります。ハリウッドは何年も前から、アメリカの観客にアニメを成功させようと試み、失敗してきましたが、この『クリードIII』は、アメリカ的なストーリーテリングを損なうことなく、アニメのテーマを取り入れた作品として新たな流れを生み出そうとしているのです。
日本アニメに影響を受けた『クリードIII』がアメリカでヒット
ハリウッドが長年にわたって日本のアニメを取り入れようとしてきたことはご存知でしょうか。残念ながらハリウッドでアニメの実写映画に多くの試みがなされましたが、そのほとんどが興行的に失敗しています。
しかしここ数年、ハリウッド映画はもちろん、アメリカのテレビ番組も日本のアニメからインスピレーションを得てコンテンツを作り、大きな成功を収める作品が出始めました。その一つが映画『クリードIII』です。この映画公開最初の週末に全世界で1億ドル以上の興行収入を記録しています[1]。
監督兼主演のマイケル・B・ジョーダンは、いかに自分のストーリーテリングにアニメが影響を与えたかをインタビューで語っています。中でも最後の格闘シーンに影響を受けたのは、『ワンピース』『ドラゴンボールZ』『ナルト』といった数々の日本のアニメなのです。
日本アニメの人気を利用することに失敗してきたハリウッド
2000年代半ばから後半にかけて、アニメのハリウッド実写映画化が相次ぎました。日本のアニメをモチーフにしたもの多く、2009年に公開された『ドラゴンボール エボリューション』を覚えている方もいらっしゃるでしょう。
この映画は、『ドラゴンボール』のライセンスを取得している日本の東映アニメーションや、アメリカのファニメーション社の関与なしに制作されました。その影響もあり『ドラゴンボール エボリューション』のプロットは、作者である鳥山明の世界観とは大きく異なるものとなってしまいました。例えば、ドラゴンボールを探す悟空の子供の頃の旅から始まるのではなく、設定を完全に変えて、悟空をアメリカの普通の高校生にしてしまいました。
この映画の成績は非常に悪く、批評家からも酷評されてしまいました。そしてその後のハリウッドでアニメ化されるすべての作品に悪影響を与えてしまったのです[2]。
『ドラゴンボール エボリューション』の失敗は衝撃的でした。当時のアメリカは、2008年に公開されたマーベルの『アイアンマン』が大ヒットしており、スーパーヒーロー映画時代の幕開けだと評価されていました。だからこそ、スーパーヒーローである悟空の活躍を描いたこの映画が観客に受け入れられないなんて、想像もつかなかったのです。
ではなぜ、スーパーヒーロー映画なのに『ドラゴンボール エボリューション』は失敗したのでしょうか?その理由はシンプルなもので、ほとんどのアメリカ人は、自分の好きなアニメ、特に日本のアニメの実写版を観たくないというインサイトを持っていることにハリウッドが理解していなかったからなのです。
ミレニアル世代とZ世代がアニメをメインストリームにする
もちろん、アメリカ人がアニメを好まないというわけではありません。アニメの人気は、インターネット、特にビデオやストリーミングサービスが大きく牽引してきました。2000年代には多くのアニメファンがYouTubeでアニメをみていたし、NetflixやCrunchyRollなどのストリーミングサービスでも視聴するようになりました。現在、Netflixによると、全世界の2億2200万人のユーザーのうち、半数以上が1年間に1度はアニメを視聴しているといわれています[3]。
現在、日本以外の国で最もアニメを視聴しているのは北米です。2023年の調査データでは、アメリカ人の18%がアニメを視聴していると推定されています。アメリカ人の5人に1人がアニメを楽しんでいるのです[4]。
ただし、アニメ原作のハリウッド実写映画になると、その状況は一変します。『ドラゴンボール エボリューション』以外にも、『スピード・レーサー』、『攻殻機動隊』、『デスノート』などが、原作をアメリカ風にリメイクし、ドラゴンボール・エボリューションと同じように、これらはすべて失敗し、批評家から叩かれているのが現状です。
Morning Consultが発表した人気アニメのうちどれをハリウッドで映画化してほしいか、成人を対象にアンケートを実施した結果がこちらです。
(参照)https://morningconsult.com/2022/10/11/anime-rise-dragonball-z-crunchyroll/
どれも大きくヒットした人気アニメであるにもかかわらず、大多数の人がハリウッドでの映画化には興味がない、あるいはほとんど興味がないと回答しています。
それなのに、アメリカのメディアにはアニメの引用が散見されます。
ではアニメが好きな人は、実写化ではなく何を求めているのでしょうか。
アメリカ人に浸透している日本アニメのエッセンス
アメリカの様々なコンテンツにアニメが与えた影響は実は各所に見られます。例えば、『AKIRA』の金田のバイク・スライドブレーキ・シーンや『セーラームーン』の月野うさぎの変身ポーズなど、有名アニメの有名なシーンはアメリカ人のアニメ好きの心にも強く刻まれていて、オマージュされた作品も数多くあります。
他にもアニメ専門チャンネルカートゥーン・ネットワークのビジュアルアートスタイルもかなり影響を受けているでしょう。
(参照)https://steven-universe.fandom.com/wiki/Blue_Diamond ※アメリカの人気番組、特にアニメに日本のアニメの影響が多く見られる一例。
「Steven Universe」のキャラクター「Blue Diamond」。このキャラクターのデザインは、「宇宙戦艦ヤマト」や「銀河鉄道999」でお馴染みの松本零士氏のアートをベースにしています。
アメリカ人は漫画的なストーリーの流れや日本のアニメのようなアートワークに、知らず知らずのうちに慣れ親しんでいるのです。
アメリカ人は日本アニメのどこを見ているのか?
『クリードIII』は、『ワンピース』『ドラゴンボールZ』『NARUTO』といった少年漫画から影響を受けていますが、監督のマイケル・B・ジョーダンが興味を持ったのは、そのビジュアルだけではありません。彼はIndieWireのインタビューで次のように話しました[5]。
「私はアニメの根底にあるテーマ設定が大好きです。友情の絆、裏切り、復讐、約束などたくさんのそこには感情が溢れています。アメリカの少年向けアニメ番組にはこのような深い物語はほとんどありません。
また、日本のアニメの多くは、一人の主人公だけに焦点を当てるのではなく仲間が一緒に戦うことに焦点を当てる傾向があると思います。そしてそこには善と悪という単純なものではない、ライバル関係の物語も含まれています。このような何十にも重なる構造が、アメリカの多くのファンを魅了しているのです。」
『クリードIII』では、マイケル・B・ジョーダンの好きなアニメをオマージュした撮影が行われています。戦闘シーンを、ただ単に観客に楽しい喧嘩を見せるのではなく、2人のキャラクターの関係を物語るために使っているところにもそれが表れているでしょう。そしてアニメファンはそんなところに心をくすぐられているのです。
アメリカでアニメが流通するようになって数年、ハリウッドはようやく人気の本質を知りヒットに繋げるヒントをつかみ始めています。キアヌ・リーブスは、次回作『ジョン・ウィック4』でもアニメにインスパイアされることを明らかにしています[6]。
まとめ:日本アニメの本当の評価
アニメ、特に日本のアニメが人気なのは、魅力的なストーリーとビジュアルはもちろん、観客に様々な感情を抱かせる伏線が張られているからです。この日本的なストーリーテリングの機微を排除してしまうと、ファンからは見向きもされなくなってしまいます。
アメリカのミレニアル世代やZ世代には特に少年漫画は非常に人気があります。厳しい修行、ライバルとの関係、友情の力などが描かれているところが響いているようです。表面的なストーリーだけではなく、ここまで細かく深く日本のアニメがアメリカ人に受け入れられていることは、日本人の誇りでしょう。
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参照元
- Box Office: ‘Creed III’ Sets Franchise Record With Huge $58 Million Debut
- Wikipedia: Dragonball Evolution
- Streamers want in on anime’s growing global audience
- How Many People Watch Anime?
- How Michael B. Jordan’s Love of Anime Shaped ‘Creed III’ Fight Scenes
- John Wick 4 Is Embracing The Series' Anime Influences
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