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2018年以降、ナイキは「ナイキ・ライブストア」という店舗コンセプトを開発し、いくつかの店舗でテストを行ってきました。アプリから直接購入できる機能に加えて、無料ギフトや特別なトライアルルーム、リアルな人とのつながりといった、利便性と対面店舗を訪れる動機付けが絶妙にブレンドされたナイキ・ライブストアは、新型コロナウィルス騒動以降に向けて期待が寄せられる店舗です。デジタルショッピングやDTC(ディートゥーシー)モデルへの移行は、一部の小売業者にとっては難しいものですが、ナイキは店舗戦略の方向転換により、成功への足がかりを築いています。
ナイキ製品を購入したいと思った場合、通常どこで入手するでしょうか。米国では、多くの人がPayless(https://www.payless.com/)、Nine West(https://ninewest.com/)、Foot Locker(https://www.footlocker.com/)などの有名なシューズショップやその他多くの有名チェーン店で靴を購入しています。また、ナイキのアプリやウェブサイト、Amazonのようなサードパーティの販売者など、オンラインで製品を購入することに抵抗がない人もいます。しかし、ナイキの商品だけを扱う店についてはどうでしょうか。ナイキ製品を買うためだけに店舗を訪れるでしょうか。
新型コロナウィルスのロックダウン対策により、実店舗のコンセプトは、最近多くの批判にさらされています。ネット販売への移行は、新しい小売業界で生き残るための必須条件となっているため、昨年は度重なるロックダウンや自己検疫令の波が実店舗に大きな影響を与えてきました。
ナイキは、ダイレクト・トゥ・コンシューマー(DTC)戦略の一環として、従来の小売店と、製品へのデジタルアクセスに対する需要の変化とを完璧に融合させるソリューションを考案しました1。
ナイキ・ライブストアとは
ナイキ・ライブストアは、NikePlus(ナイキ・プラス)に加入している人が様々な特典や限定商品を楽しめる小さな対面式の店舗です。ナイキ・プラスは、ランナーのためのサブスクリプション式アプリで、ワークアウト情報を記録し、さらにはコーチからトレーニングを受けることができるようになっています。また、他のメンバーとランニングチャレンジのようなソーシャル機能に参加したり、特定のワークアウト目標を設定したりすることもできます2。
ナイキ・ライブストアの1号店は2018年にオープンしました。当時ナイキは、イノベーションのスピードを2倍にし、サードパーティの小売店やその他のパートナーに頼るのではなく、顧客と直接つながる方法を再構築することを優先したコンシューマーダイレクト戦略に1年を費やしていました。LAにオープンした店舗は、「Nike by Melrose(ナイキ・バイ・メルローズ)」と名付けられ、店舗の場所、機能、商品は、メルローズ(ロサンゼルス市内の人気ショッピング地区)の買い物客の好みや習慣に関する18ヶ月間の調査を経て考案されました。高所得者が多いこの地域では、多くの店舗のデジタル化に関して、買い物を楽にすると消費者に好意的に受け取られていた一方で、従来の小売店のような、人と人とのつながりが欠けていると思われていることを、ナイキは発見したのです。これは、パンデミック時の多くの人々の顧客体験によく似ていないでしょうか。
このようなニーズに耳を傾け、新しい実店舗戦略を構築することで、ナイキはナイキ・ライブストアのプロトタイプを作ることができたのです。
ナイキ・ライブストアの一般店舗との違い
ナイキ・ライブストアは、ナイキ・プラスのメンバーのデータを加味して運営されています。サブスクリプションサービスにより、メンバーの買い物習慣や希望商品を記録し、興味・関心を把握することで、該当地域の人々に最もアピールする厳選された商品やスタイルを店舗に提供します。会員はオンラインで商品を購入し、店舗で受け取ることができます。また、パンデミックの世界では当たり前になっている「カーブサイド・リターン(店舗脇での返品)」も可能です。
店内には「ダイナミック・フィットゾーン」など、本格的なアスリートに最適な機能が用意されています。ここには、ナイキのエキスパートが常駐しており、新しいトレーニングウェアやより良いシューズなど、ナイキに関するあらゆることをサポートしています。また、実際に商品を試してみたいという顧客のために、このエリアにはナイキ・トライアルゾーンが設けられており、設置されたトレッドミルを使用し、購入前に新しいナイキシューズを「慣らし運転」することができます。どちらのゾーンも、ナイキのアプリから予約することができ、1対1での接客を受けることが可能です3。
店内には、個別対応だけでなく、さらに特別な特典が用意されています。ナイキ・アンロック・ボックス」と呼ばれる、ノベルティギフトがもらえる自動販売機があり、ナイキ・プラスの会員パスをスキャンすると、ノベルティ賞品のいずれかをもらうことができます4。
こうしたユニークなプレゼントや会員への5つ星の待遇に加えて、ナイキ・ライブストアで最も重要なことは、地域の消費者から収集したデータで運営されているということです。ナイキは、売れることを期待して特定の商品をストックしておくのではなく、会員の習慣を見て、その買い物パターンに直接対応します。隔週で店内の商品を入れ替え、会員の買い物傾向を把握するのです。このように、ナイキ・ライブは単なるナイキストアではなく、LA地域専用のナイキストアとなり、店舗の立地条件に合わせてカスタマイズされたニーズと、従来の店舗とが見事に融合されています。
まとめ
2018年以降、オレゴン、ロングビーチ、さらには東京など、LA以外の場所にも、ナイキ・ライブストアが出現しています。それぞれの店舗は他の店舗とは少し異なり、その店舗を頻繁に利用する機会のある顧客のニーズに直接対応しています。例えば、ロングビーチ店では、女性アスリート向けの商品を取り揃えており、これは、その地域で需要のある靴のデータに基づいています5。また、東京店では、アメリカではあまり普及していないメッセージアプリ「LINE」を使って店舗のスタッフにメールを送ることができたり、「LINE」で店舗を友だちに登録すると、割引情報やイベント情報などを直接受け取ったりすることができます。
ナイキは、地域の顧客データに基づいた動きや変更を行うことで、新型コロナウィルス以降の世界で実店舗を維持するための手法を学んでいます。現在ナイキでは、ナイキ・ライブストアのような店舗を世界中で200店舗展開する計画があるようです6。ワクチンを接種する人が増えれば増えるほど、2020年から浸透したオンラインショッピングの習慣を捨てて、リアル店舗で物を買う人が増えていくのではないかと予想されています。ナイキでは、店頭で買い物をするインセンティブは十分にあり、デジタルとリアルを有機的に繋いだポストコロナの世界に向かって走り始めていると言えるでしょう。
参照元:
[1] https://footwearnews.com/2019/business/opinion-analysis/nike-dtc-competition-adidas-under-armour-digital-sales-1202845517/
[2] https://www.livestrong.com/article/13723237-earn-money-walking-apps/
[3] https://news.nike.com/news/nike-by-melrose-store-los-angeles
[4] https://www.retaildive.com/news/store-concept-of-the-year-nike-live/541703/
[5] https://news.nike.com/news/nike-live-launches-in-long-beach-and-tokyo
[6] https://www.retaildive.com/news/nike-pushes-small-format-expansion-with-new-nike-live-store-in-oregon/593782/
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