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米国マーケティングトレンド研究会 2020.11.25

バーチャルインフルエンサー。パワフルだが、時に危険が伴うのは想定内?

近年、多くのブランドがインフルエンサーや、その社会的な力を利用して、消費者に商品を販売するようになってきました。しかし、すべてのブランドが本物の人間を使っているわけではありません。いくつかのブランドは、インターネット上の、何百万人もの若者に影響力を持つコンピューターアイドルであるバーチャルインフルエンサーを使ったキャンペーンを試みています。特に、ファッションブランドは、程度の差こそあれ、これらのアバターの人気を利用するようになってきています。

インフルエンサーとその力は、どこからともなく出現し、世界のインターネット上に登場し始めました。商品のレビューをしたり、新しいレシピを試してみたり、日常生活について書くのが好きなブロガーやライターたちは、多くの人々を魅了し、インフルエンサーの影響力は無視できないほど強力なものなりました。Instagram(インスタグラム)、Snapchat(スナップチャット)、Youtube(ユーチューブ)など、動画や画像をより簡単に共有できるアプリの登場により、人々はより親密で身近な方法でつながりを持つことが容易になりました。

ソーシャルメディア以前の時代のようにセレブは謎に包まれておらず、一般の人々はInstagramのストーリーズやライブストリームを通じて、彼らとのパーソナルな瞬間を日常的に体験することができるようになりました。アメリカでは、政治家でさえもソーシャルメディアのプラットフォームの親密さを利用しています。アレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員(ニューヨーク州出身)は、定期的にインスタグラム上でイベントを開催し、有権者に直接自分たちの懸念や民主主義のプロセスについての疑問を話したり、政府で起こっていることを取り上げたりしています。

しかし、新型コロナウィルスのパンデミックによって、旅行や外出、大規模なイベントなどの人が集まるブランドのプロモーションにインフルエンサーを利用することが難しくなっています。一部のブランド、特にファッションブランドは、感染の可能性のないインフルエンサーを使ってキャンペーンを行うことで、この問題に先手を打っています。

彼らが使用しているインフルエンサーは人間ではなく、超リアルなコンピュータ・アニメーションのキャラクターです。

初めて聞くと馬鹿げて聞こえるかもしれませんが、バーチャルインフルエンサーは新しい概念ではありません。2001年には、『ファイナルファンタジー:ザ・スピリッツ・ウィズイン』という映画が公開され、アキ・ロスというキャラクターが主演していました。当時の他のアニメ映画とは異なり、ファイナルファンタジーは、映画に主演させる超リアルなルックスのキャストを作成することに専念し、アキ・ロスを世界初のCGI女優にしようと計画していました。彼女は実在の女優であるミンナ・ウェンが声を担当する、世界初のバーチャルセレブになる予定でした。しかし、残念ながら映画自体の興行成績が芳しくなかったため、この計画は中止となり、アキ・ロスは、すぐに記憶から消え去られていきました。[1]

バーチャルアイドルといえば、皆さんがよくご存知の「インフルエンサー」の一種である初音ミク。2007年にボーカロイド3で発売された音声ソフトを擬人化したもので、その人気は爆発的に高まり、ステージ上でホログラムが踊るのを見るためにお金を払って何千人もの人がコンサートに行くようになりました。 世界的に有名なアーティストが出演するアメリカの年間最大の音楽イベント、コーチェラ2020(Coachella 2020)にも出演しています。[2]音楽以外にも、2013年にはファッションブランド「ルイ・ヴィトン」のキャンペーンに参加し、マーク・ジェイコブスが彼女のためだけに2着の服をデザインしました。

このように、バーチャルインフルエンサーの概念は、新しいものではありません。インターネットやインスタグラムのようなソーシャルメディアサイトの人気や、アニメーション技術の進歩により、彼らの名声は可能性というよりもむしろ必然的なものとなってきています。近年、バーチャルセレブやアイドル、インフルエンサーの人気は衰えることを知らず、特にファッションブランドがキャンペーンに利用しています。

最も人気のあるバーチャルインフルエンサーの1人が、Lil Miquela(リル・ミケラ)という名前のシミュレートされた若い女性です。リル・ミケラ(ミケラ・サウザとしても知られている)は、Instagramで280万人以上のフォロワーを持ち、信じられないほどリアルに見えるにもかかわらず、完全にコンピューターで制作されており、インスタグラムのプロフィールでは、「ロボット」と表現されています。 彼女は、スペイン人とブラジル人のハーフの19歳の少女に見えるようにデザインされました。彼女は「Brud」というロサンゼルスのスタートアップ企業によって作られ、2016年4月にデビューしました。[3] それ以来、彼女はシャネルやバンズなどのファッションブランドのキャンペーンに多数起用されているだけではなく、ニューヨークファッションウィークでは、彼女はイベントのためにプラダのインスタグラムアカウントを 引き継ぐことさえ許されました。さらに、リル・ミケラは自身のファッションブランド 「CLUB404」も持っています。[4] 彼女は実在しないにもかかわらず、フォロワーとの交流でも知られ、質問や意見がある場合、彼女からInstagramでプライベートメッセージを送ることさえあります。

リル・ミケラはあらゆるブランドのための完璧なスポークスマンになることができ、Brud社はコンピュータで生成されたキャラクターを持つことにより活動をスムーズに行えています。しかし、彼女を 「よりリアル」にするため、Brud社は彼女により多くの個性と政治的な意見さえも与えました。

リル・ミケラはファッショナブルな生活を超えて、オンライン上のペルソナの一部として政治的な発言も行っています。妊娠中絶合法化支持者であるだけでなく、ブラック・ライブス・マター運動の支持者としても知られています。一部のインフルエンサーやブランドは、ソーシャルメディア上や公の場での政治活動を避けようとしてきましたが、リル・ミケラの場合はそういった発言がマイナスに働くことはなく、まったく逆のことが起こりました。実際、2019年1月には、リル・ミケラのクリエイターは、今後のブランディングキャンペーンでさらに彼女を起用する使用料として1億2500万ドルの投資を獲得しています。

しかし、いつも完璧にいくわけではありません。彼女の繊細で進歩的なイメージのおかげで、リル・ミケラとそのクリエイターたちは彼女の広告価値観に沿わないキャンペーンに参加したことで物議を醸しています。

2019年5月、彼女は実在のセレブスーパーモデル、ベラ・ハディッドとファッションブランドのカルバン・クラインとの広告キャンペーンに参加していました。広告は、「#MYCALVINS」のキャンペーンの一部である「#MYTRUTH」キャンペーンのためのものでした。ブランドの目的は、その人の個性的な特徴やアイデンティティをカルバン・クラインのファッションスタイルに関連付けることで、これには性的嗜好と結びついたアイデンティティのようなものも含まれていました。キャンペーンの一部には、ベラとリル・ミケラがキスをするビデオが含まれていたが、残念なことにこれは不評でした。リル・ミケラもベラ・ハディッドもゲイではなく、ゲイのふりをして消費者の「本当の」アイデンティティを祝福するキャンペーン中にキスをしたことは、ソーシャルメディア上の若い視聴者からは非常に不評でした。当時のベラ・ハディッドは男性アーティストのザ・ウィークエンドと公然と交際しており、リル・ミケラがCGであることはよく知られていました。「真実」をテーマにしたキャンペーンの中で、実際の生活ではとらない行動を2名の女性が行ったことについて、多くの消費者は反感を抱きました。最終的に、カルバン・クラインはこの広告について公に謝罪することを余儀なくされました[5]

リル・ミケラはインターネット市場で唯一のバーチャルインフルエンサーではなく、彼女だけがファッションに精通しているわけでもありません。Shudu Gram(シュ-ドゥ・グラム)は、近年多くの注目を集めているだけでなく、多くの論争を集めている別のバーチャルインフルエンサーです。シュードゥは世界初のバーチャルスーパーモデルとして売り出されており、パンデミックで世界がますます孤立化していく中、彼女のように感染のリスクを負わずに人前に出ることができるインフルエンサーは、ますます力を持ち、求められ、人々に見られる存在になっていくでしょう。

シュ-ドゥはフランスのファッションハウス、Balmain(バルマン)のために作成されました。バーチャルインフルエンサーの世界で懸念されているのは、芸能界ではすでに存在している多様性の欠如の問題です。しかし、シュ-ドゥはダークトーンの肌をした女性アバターで、彼女が作成されて以来、多くのファッションキャンペーンに使用されてきました。彼女を取り巻く最大の論争は、ブランドの利益のために白人によって作られた、ということかもしれませんが、表現の面では、彼女が良い方向への一歩であることは間違いないと多くの人が認めています。シュードゥが実在の人物ではないことを認識していたかどうかは不明ですが、歌手のリアーナのブランドである、フェンティ・ビューティは彼女のコンテンツを宣伝しました。フェンティ・ビューティは、しばしば黒人の女性やプラスサイズの消費者など、アメリカの市場では無視されているボディタイプを包括するブランドとして、美容業界でポジショニングしてきました。[6]シュードゥは政治的な発言を行うリル・ミケラの問題とはまた異なりますが(白人男性によって作成されてはいますが)、黒人女性である彼女の影響力はとても大きく、いまだに論争は続いています。

一部の人々は、人間が作り上げたバーチャルインフルエンサーが人々に悪影響を与えるために利用されるのではないかと危惧しています。誤った情報を広めたり、脆弱な人々の過激化に貢献したりするために利用される可能性があるからです。画像や広告に写っている人物がコンピューターで生成された画像であり、実在の人物ではないことが100%明確でない場合、現実世界に混乱が生じる可能性があります。[7]

これらのバーチャルインフルエンサーを扱うことは、ブランドが望んでいる通りに動かす、という点では簡単ですが、クリアしなければならないハードルや、まだ眠っている多くの論争があります。キャラクターの背後にある企業が、今後もバーチャルインフルエンサーを使用し続ける場合には、これらのブランディング・パートナーシップの落とし穴の可能性について責任を負うことが鍵となってきます。

[1]Lil Miquela and the virtual influencer hype, explained

[2] Club404 is Lil Miquela’s own fashion line

[3] Virtual acting still a ‘Fantasy’ / Computer-generated sci-fi heroine is no Angelina Jolie

[4] Coachella by the numbers: a breakdown of the festival’s $700-million impact

[5] Calvin Klein Apologizes for Bella Hadid and Lil Miquela Campaign

[6] Balmain Reveals Line-Up Of Virtual Models For Latest

[7] Even better than the real thing? Meet the virtual influencers taking over your feeds

 

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