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どんなに品質の高い日本製のものでも、アメリカ進出で成功するとは限りません。その理由の一つに、文化の違いがあります。例えば、私たちが何気なく寝ている布団(敷布団)について、アメリカ人が持つイメージは日本のものとは大きく異なることはご存知でしょうか。今回は、両国の寝具カルチャーを知ることで、アメリカ進出時におけるインサイトを知ることの重要性を考えてみます。
あなたは布団を敷いて寝ますか?
世界各国の睡眠習慣は異なります。アメリカでは、マットレスのベッドで寝るのが一般的です。日本でもベッド派が増えていますが、まだまだ布団で寝る人もいますよね。実はアメリカにも布団=futonはありますが、その形は全く異なるものとなっています。
例えば、Googleに英語で「futon」と検索してみてください。中には見覚えのある画像もありますが、その多くは日本の布団というより、ソファーのような印象を受けます。というのも、アメリカでは「futon」といえば、ほとんどの場合、カウチやソファのことを指し、普段から寝るところだと考えられていないからです。
アメリカのFuton? マーフィーベッド
敷き布団の魅力の一つは、コンパクトに畳んでしまえることで、部屋のスペースに余裕ができることではないでしょうか。その点においては、アメリカには「マーフィーベッド」があります。
スミソニアン・マガジンによると、最初のマーフィーベッドはウィリアム・ローレンス・マーフィーという男性によって作られました。彼は男性で、オペラ歌手の女性に恋をしていましたが、当時の習慣では、女性は男性の寝室には入れないとされていました。マーフィーが住んでいたのはワンルームマンションで、彼の部屋=寝室でした。そこで彼は、社会的なルールを破ることなく彼女を招き入れるために、ベッドをクローゼットに収納する仕組みを考案したのです[2]。
このベッドは1920年代、特にニューヨークのようにアパートのスペースが限られていた都市で人気を博しました。ただ、現在はそれほど人気があるわけではありません。一般的なマットレスとベッドフレームの組み合わせに比べると、かなり高価になっているからです。
アメリカにおけるfutonの歴史
アメリカに初めて敷き布団が持ち込まれたのは1970年代です。カリフォルニアで創業した「The Futon Shops」など、西海岸から広まりました[1]。当初、日本の布団とアメリカのfutonの最大の違いは、そのサイズでした。日本の敷き布団は通常3~5インチの厚みで、体が地面に密着する感覚なのですが、厚いマットレスに慣れているアメリカ人はそれを好まなかったため、futonは8〜10インチくらいの厚さで売り出されていました。1980年代になると、東海岸にも販売するお店が出始めました。ボストンやニューヨークの店舗では、ベッドに代わるマットレスとして、この布団をPRしていたのですが、最初はパッとしませんでした。
試行錯誤を経て、アメリカでfutonが普及したのは、それを収納する木枠が作られるようになってからです。木枠ができたことで、布団を床に敷かなくてもよくなったこと、ベッドとして使わないときはソファーになること、などがアメリカ人にとっては購買を検討するポイントとなったのです。
そして2000年代に入ってからは、デザイナーがfutonのデザインを改良し、アメリカの一般家庭にとってより魅力的な家具となっています。
アメリカ人はfutonについてどう考えているのか?
多くのアメリカ人は、ソファタイプのfutonをインテリアの一部として購入しています。普段はソファとして使うが、必要に応じてベッドとして使うこともあります。つまり、アメリカで「futonを持っている」というと、リビングルームに置いて、急な来客時に使う家具と思われるのが普通です。そう、futonを“持っている”ことと、futonで“寝ている”ことは別の感覚なのです。
例えば、アメリカで日ごろからfutonで寝ていると言うと、多くの人が驚きます。なぜなら、若い人や低所得の人が使う家具という印象が強いからです。このようなイメージが定着したのには、いくつかの理由があります。
ひとつは、前述した通り、futonはベッドとソファの機能をあわせ持つもので、簡易的なものという感覚があることです。ただし、低賃金で働く若者や大学生にとっては、一石二鳥のおトク感があるため選ばれています。また、futonは多くのアメリカのベッドに比べ、コンパクトであるため、狭いスペースを圧迫しない家具を求める人に重宝されます。広いアパートに住めない人が買うものなのです。
残念ながら、アメリカで「futon」と言えば、このようなネガティブなイメージが思い浮かんでしまいます。日本のように「敷き布団」に対する知識や深い興味、健康への影響などには全く興味がないのです。
まとめ:アメリカ人に日本の伝統的な布団を売り込めるか?
アメリカ人に日本のような床に敷いた布団で寝てもらうことは、非常に難しいことでしょう。日本に住んでいるアメリカの駐在員でも、雇用契約で布団が無料で提供されているにもかかわらず、多額の費用をかけて洋式のベッドを購入していることがほとんどです。
コンパクトに折り畳んでしまえる敷き布団の利点も、押し入れを持たないアメリカの家では、綺麗にしまって置ける収納スペースを確保することの方がデメリットになってしまいます。
そして、アメリカで敷き布団が普及しない最大のハードルは、アメリカ人には床で寝ることが理解できない点にあります。欧米では数千年前から、マットレスを置き床から離れて寝ています [3]。その長い歴史を覆して床で寝ることを納得させるのは容易なことではないでしょう。ビジネスや技術ニュースの専門ウェブサイトBusiness Insiderでさえ、「ベッドフレームの何もないマットレスは許せない[4]」と主張する記事を掲載しています。
残念ながら、多くのアメリカ人にとってfutonはもちろん、日本のように布団を敷いて床で寝ることは、未熟で経済的に不安定な証拠と認識されてしまっているのです。
このように、私たち日本人にとって良いと思う文化や商品でも、アメリカではなかなか受け入れられないものがあるのは事実として受け入れる必要があります。ただ、それらは、アメリカ人に受け入れられるような訴求の仕方で、好転する可能性も大いにあります。だからこそ、アメリカ進出をするときには、彼らのインサイトを探り、分析することが重要といえるでしょう。
文化の違いを知るには、調査が重要です。
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