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アメリカ市場への進出はどんなビジネスにとっても難しいものですが、現地で馴染みのないものを販売する場合には、特に難しくなるといえます。アメリカ人にとって「セットメニュー」という概念は存在しますが、「teishoku(定食)」という言葉はほとんど知られていません。まず、アメリカ進出した日本の定食レストランで提供されている料理は、アメリカ人にとって日本食としてすぐに認識するのは難しく、また、アメリカ人はアラカルトの食事に慣れているため、カスタマイズがほとんどできないセットを新しい客層に売り込むのは難しいのです。
アメリカにはたくさんの日本食レストランがありますが、大都市以外、特に海岸から離れた地域で有名な定食レストランを見つけるのは困難です。Googleトレンドによると、当然のことながら、「teishoku」や「teishoku menu」という言葉が検索される可能性が高いアメリカ内の地域はハワイです。ハワイの日系人の人口はカリフォルニアに次いで多く、アメリカ大陸とはまた別の独立したコミュニティです。定食のような伝統が、カリフォルニア州よりもハワイの日系アメリカ人の心の中にあるのも納得できます。1
Googleで「teishoku」と検索すると、日本の定食についての記事や、アメリカの一般的な料理との違いについての記事が複数出てくる一方で、具体的なレストランや店舗のページはかなり少ないのが現状ですが、ニューヨークやサンフランシスコなどの大都市圏に住む人を対象にした2016年の調査によると、これらの地域に住むアメリカ人の78%が毎月少なくとも数回は日本食を食べているという結果が出ています。2
画像:Googleトレンドの過去12ヶ月間の「定食」という検索ワードの人気グラフ。このように、「teishoku」という言葉の人気は上昇傾向にあると思われるが、過去のように衰退していくかどうかは不明である。
では、市場に馴染みがない場合、定食レストランはどのようにアメリカ進出に取り組むべきなのでしょうか。
アメリカへの進出は、アメリカ国内でも各地域によって異なるマーケティングスタイルや製品が好まれるため、トリッキーなビジネスである可能性があります。ただし、レストランに関しては、考慮すべき全国的な文化規範がいくつかあるため、ご紹介します。
アメリカ人は通常アラカルトで注文する。
アメリカにおいて「セットメニュー」という概念自体が前代未聞というわけではありませんが、通常の食事では遭遇しません。アメリカで最も定食レストランに近いものは、ランチスペシャルやスペシャルディナーセットを提供するような場所です。高級レストランでは「prix fixe(プリフィックス:フランス語で「定額料金」という意味)」メニュー」があることもあり、ランチでは個々の商品を高額で支払いたくない人がセットメニューを購入します。
しかし、既に内容が決まっている量の多いセットメニューを注文するという概念は、ほとんどのアメリカ人には馴染みがありません。平均的なアメリカ人の生活の中でセットを見つけることができる最も一般的な場所はファーストフード店であり、それさえも「セット」のほとんどの部分はカスタマイズ可能です。
アメリカ人の興味を惹くためには、アラカルトのオプションを持つことは欠かせないのです。
固定化された料理の代用。
アメリカ人についてのネガティブなステレオタイプの一つとして、食事に対する好き嫌いが偏っているいというものがあると思いますが、これは根拠のない話ではありません。2015年に行われたある調査では、アメリカ人の86%がアメリカでは偏食が一般的であると思っているという結果が出ています。比較のデータを出すと、この同じ調査では、ヨーロッパでは36%の人しかヨーロッパでは偏食が一般的であると思っていないことが明らかになっています。3
アメリカ人は、たとえ食事の内容が固定されていたとしても、その調整を求めることに全く抵抗がなく、自分の好みに合うように具体的な変更を要求することは珍しくありません。
アメリカ人が内容を変更できない食事に遭遇するのは、高級レストランだけです。それ以外にも、メニューに記載されているかどうかに関わらず、食材の変更を要求する顧客がたくさんいることが予想されます。
アメリカ市場へ進出!「Yayoi=やよい軒」のアメリカ市場でのチャレンジ
人気の定食チェーン「やよい軒」は、こうした文化的なニュアンスを考慮して、ここ数年でベイエリアを中心に北カリフォルニアに複数のレストランをオープンさせています。この地域は日系アメリカ人の人口が多く認知度が高いため、馴染みやすいのだと思われます。
オンラインメニューを見てみると、さまざまなセットメニューとメインコースをアラカルトで提供しています。すべてのメニューのほとんどは日本語の名前をそのままに、各メニューの前に数字を記載しています。日本名を発音できないアメリカ人にとっては、イライラせずに注文できるためありがたい気遣いです。
Yelp(イェルプ:アメリカでメジャーなレストラン評価サイト)のページをざっと見てみると、平均以上の評価と700件以上のレビューがついています。また、公式ウェブサイトによると、「やよい軒」はコロナ禍においてクラウドキッチンの形態にチャレンジしています。
クラウドキッチンとは、ダイニングスペースを持たない代わりに、オンラインでの注文に特化したレストランのことで、UberEats(ウーバーイーツ)、GrubHub(グラブハブ)などのフードデリバリーアプリや、オンラインフードオーダーの45%を占める最大のアプリであるDoorDash(ドアダッシュ)のような食品配達アプリで利用されています。4
デリバリーアプリ内での競争率が高いことに加え、「teishoku(定食)」という言葉がアメリカではほとんど知られていないなか、サンフランシスコの「やよい軒」はクラウドキッチンとして、オンラインでの顧客獲得に乗り出しています。
コロナ禍において、定食レストランに不慣れな人々は、食べたことのない食事にお金を払うことに不安を感じる可能性があります。「やよい軒」をはじめとする日本食レストランでの食事は、より質の高い日本食であり、定食の価格はチップと配送料を加えると、簡単に30ドル以上になる可能性があります。
平均して、人々は週に約2.4回、デリバリーアプリから食べ物を注文しているというデータがありますが、一週間を通して平均67ドルを消費する可能性があり、それは、個人での注文ごとに約27ドルを費やしていることを意味します5。家族での注文の際はおそらく平均値よりも多くを費やしていると推測できるため、ファミリー層をターゲットにするということは十分に考えられます。
今後、定食レストランが考慮すべきなのは、提供する食品が常にアメリカ人に「日本のもの」として認識されるとは限らない、ということです。2016年に行われた「アメリカ人が日本食を食べる頻度」という調査では、どんな日本食を好んで食べるかという質問もあり、最も人気のある料理は寿司とラーメンがダントツで、カツやカレー、天ぷらなどの定食メニューの人気は低く、日本のものと認識されているかどうかさえわかりませんでした。
画像: 「好きな日本料理、よく食べる日本料理は何ですか?」という質問に対する最も多い回答をグラフ化したもの(jfood411.comより)
結論
食品やレストランブランドのアメリカ市場への進出は、アメリカ人の好き嫌いが多い傾向から、常に困難を極めてきました。新型コロナウィルスによるパンデミックの影響で、少なくとも2021年秋まではほとんどのアメリカ人がレストランで食事をすることができない可能性が高いため、ネット販売を活用していくことが重要になってきます。
アメリカに進出した日本の定食レストランのように、あまりアメリカ人に馴染みのない料理を提供している店では、ネット注文のみで人目に留まるのは難しいかもしれません。現時点では日本食への需要はありますが、「teishoku」への欲求はそれほど高くない可能性があり、お腹を空かせたアメリカ人の注目を集めるためには、食通が「teishoku」を友人に勧めてくれるのを待つよりも、オーセンティックな日本料理であることや、バランスのとれた健康的な食事を提供しているというブランディングメッセージを作成する方が効果的かもしれません。そうすることで、想像よりも高い価値を生み出し、一度の食事に30ドルを費やすことの意味を認めさせることができるかも知れません。
[1] Teishoku” Search Trends on Google
[2] Japanese Food Survey: Insights and Trends
[3] Nature vs. Nurture at the Dinner Table: Americans Weigh In on Whether Picky Eaters Are Born or Made
[4] Most Popular Food Delivery Apps
[5] Coronavirus Takeout: Average Weekly Spending
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