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米国マーケティングトレンド研究会 2023.05.16

マーケティングで使われる日本文化。海外トレンド「kintsugi(金継ぎ)」の本質とは?

アメリカでは今、ヘルス&ウェルネスのムーブメントがきていますが、その中で、とある日本の文化がトレンドに上がっています。それが「金継ぎ」です。金継ぎは割れたり、欠けたりした器を修復する日本の伝統的な技法です。多くのアメリカ人が、装飾品としての美しさを超えて、その「直して育てる」という考え方に惹かれています。ここ数年、このコンセプトは多くのメディアでメタファーとして使われていますが、今回はこの金継ぎの海外での流行をマーケティングに活用するためのヒントも交えて紹介します。

日本文化の精神が共感され始めた。

多くのアメリカ人が、今や日本や日本製品を評価しています。一方で、それが“日本人の考え方”となると、そもそも自分のライフスタイルに取り入れることから外して考える癖がありました。つまり、あまり共感を得られていなかったのです。しかし、最近、「生きがい」や「ときめき」といった言葉がアメリカの辞書に載るようになりました。テレビ番組や書籍で幸福度を高める日本の生活哲学として紹介されたことで、少しずつ日本文化の精神が評価されるようになったのです。そんな中、最近注目されているのが「金継ぎ」です。

実はアメリカ文化と金継ぎという哲学との間には深い親和性があります。それはキリスト教とのつながりです。キリスト教では、神は信者に厳しい試練を与え、その献身を試すという考え方がありますが、与えられた試練を「砕け散ってまた元に戻すこと」に例えることで、アメリカのクリスチャンの中には、神とつながる方法として「金継ぎの精神」を取り入れている人もいます。例えばGoogleで「Kintsugi Christianity」と検索すると何百件もヒットしますが、その多くは神の愛と金継ぎの精神とのつながりに関するブログ記事がでてくるほどです。

この金継ぎへの共感によって生まれた「金継ぎ」に関連するさまざまな商品・サービスにはどのようなものがあるのか、広告やマーケティングで金継ぎを使うとアメリカ人にどう映るのか、考えてみましょう。

金継ぎは海外でライフスタイルのトレンドになる。

そもそも資本主義が支配する西洋では、幼いころから壊れたものは捨てて新しいもの、より良いものに買い換えることを教えられます。もちろん、修理することも可能ですが、新しいものを購入することで、自分の富や権力を誇示してきました[1]。
そして金継ぎが最初に流行した背景には、西洋の美の価値観の対極にあるものを凝縮しているからだ、という説があります。

まず金継ぎは19世紀、多くの西洋人が日本文化に興味を持ち始めたころ、西洋で初めて広まったと言われています。まるで最初からそうデザインされていたかのようにきらりと金がきらめく器は、美しい芸術として人気を博していました。
そして現代では、壊れたら捨てるのではなく「傷も肯定する。あるがままに受け入れ、より魅力的に直して使う。」という発想そのものがライフスタイルの中で共感を呼んでいます。特にメンタルヘルスの分野では、ミスとの関係を再定義するための考え方として捉えられており、自分を受け入れ、過去から成長することの重要性を説く哲学となっているのです。

マーケティング視点から見た金継ぎ。

金継ぎが体現する成長のメタファーは、アメリカのメディアやマーケティング分野でも人気があります。実際、Google Trendsによると、人気アーティスト、ラナ・デル・レイの楽曲のリリースをきっかけに、金継ぎは過去5年間のアメリカ国内で検索ボリュームの中で、最高記録出しました。彼女の曲「Kintsugi」は、悲しみから成長したことを論じています。

(参照データ)https://trends.google.com/trends/explore?date=today%205-y&geo=US&q=kintsugi&hl=en

※2018年~2023年の米国における「kintsugi」の検索数推移。検索数が最も急増したのは、2023年3月、「Kintsugi」というタイトルの曲が収録されているラナ・デル・レイの最新アルバムのリリース時でした。金継ぎへの関心は、過去5年間、徐々に高まっています。

この現象以外にも、金継ぎがマーケティングに使われている例をいくつかみていきましょう。

・人気アニメ「Bojack Horsemanボージャック・ホースマン」でのメタファー
2020年Netflixで公開された人気アニメ番組「Bojack Horseman(ボージャック・ホースマン)」のエピソード「Good Damage」の中で、ベトナム系アメリカ人の女性ライター・ダイアンが幼少期のトラウマの意味を理解しようとするシーンが出てきます。
移民家系の生まれであり、家族とも折り合いが悪く、“自分の家族”というアイデンティティを持たない彼女は、金継ぎを自分の人生のメタファーとして考えました。亀裂は自分のトラウマであり、それを「金」で埋める、つまりキャリアアップのために自分のトラウマについて本を書くことで心の隙間を埋めることができれば、このトラウマが「良いダメージ」だったことになると導き出すストーリーです。
この話は特にミレニアル世代やZ世代に人気があります。若者世代にとって金継ぎの精神に共感する導入点となったのかもしれません。

・ビバリーヒルズ発「Kintsugi hair(金継ぎヘア)」
ビバリーヒルズ サロンのオーナーであり、金継ぎクリエイターでもあるポール リンゼイが2020年に「Kintsugi」というコレクションを販売しました。この製品は髪の欠陥を隠すのではなく水分補給と栄養補給によって髪のダメージを回復させ、より美しくなることをコンセプトとしています[2]。流行の発信地であるビバリーヒルズで、ダメージ回復した髪のことは「Kintsugi hair(金継ぎヘア)」と呼ばれ、人気が高まっています。
その証拠に、一つの用語に関連する最も検索された質問を収集するサービス「Answer the Public」によると、「Kintsugi hair」に関する質問が多く、このブランドがきっかけで認知されている様子がうかがえます[3]。

・精神状態を診断するAIを開発する企業名に「Kintsugi」
メンタルヘルス対策の分野でも、金継ぎは重要な役割を果たしつつあります。2019年にはアメリカで、音声分析ソフトを使って患者の精神状態を診察するAI技術を開発するスタートアップ企業「Kintsugi」が設立されました。診断に「声のバイオマーカー」を利用するこの技術はまだまだ初期段階ですが、ヘルスケア空間では大きな注目を集めており、2022年には2000万ドル以上の資金を調達しました。
そして2023年にはKintsugiの変革的で革新的な技術が評価され、最も革新的な民間ヘルスケア企業を表彰するFierce HealthcareのFierce 15社の1つに選ばれています[4]。

金継ぎをアメリカ人向けマーケティングに活用するために。

金継ぎをマーケティング・キャンペーンに活用すれば、メンタルヘルスや心の健康に関心のあるアメリカ人の興味を惹きつけることが期待できます。金継ぎのイメージや哲学を広告に使っているブランドは、共感できる企業だと思われるからです。これは、先の例にもあるように金継ぎが心の健康や自己啓発と明確に結びついているからでしょう。

ただし金継ぎをブランディングキャンペーンに活用する場合、以下のような点に注意する必要があります。

  1. 「Kintsugi」という言葉に馴染みのないユーザーのために、発音ガイドをつける。
  2. 例えば「Live your truth」「Scars and all」というフレーズを使用するなど、コンセプトを簡潔に説明し、「傷」がいかに自分を美しくしてくれるかを強調する。
  3. 日系人以外だと、白人のミレニアル世代女性が最も認知度が高く興味を持ちやすいと考えられるため、キャンペーンのメインターゲットにすると良いかもしれない。
  4. Kintsugiという言葉・概念を単独で使うこと。特に「侘び寂び」につなげがちですが、金継ぎと違って、侘び寂びは同じような認知度ではなく、一度度に2つの言葉を紹介するとアメリカ人は混乱してしまうので。

まとめ:より深いところから受け入れられ始めている「日本」。

継ぎは、自分の出自に忠実であること、自分の欠点に正直であることの重要性を強調しているため、多くのアメリカ人に共感されています。このコンセプトは、個人主義の力を信じ、自分の出自を偽ることは嫌われることだと考えるアメリカ人に受け入れられやすいものです。金継ぎの精神は、アメリカ人が自分の過去に忠実でありながら、自分の欠点を認識し、受け入れて昇華することを可能にしているのでしょう。

多くのアメリカ人が日本は深い知恵がある国だと考えているため、金継ぎをはじめ日本の文化のコンセプトについて学ぶことを楽しんでいます。私たちが思いもよらないところで日本語や日本文化、精神が広まっているかもしれませんね。


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参照元

  1. The Ancient Craft of Kintsugi Continues to Fascinate Contemporary Artists
  2. Kintsugi Hair: About Us
  3. AnswerThePublic Report on Kintsugi
  4. Kintsugi Named One of Fierce Healthcare’s 2023 ‘Fierce 15’ Companies

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